地域発の情報発信のあるべき姿とは?
9月20日にリベルタ主催で行われた地域からの情報発信のあり方を探るトークセッションイベント「今、地域に求められる情報発信力とは?」。
東京一極集中や人口減少社会の中、日本中で「地域活性化」「地方創生」という言葉をよく聞くようになり、もうどのくらい経っただろうか。地方食材のブランド化、国内外を意識した観光地化…そう、様々な施策がそこかしこに溢れている。
そのすべてが功を奏していれば問題はないのであるが、そうはいかず、はっきり言って多くの地域が課題にまみれ、どうしようもできない現状にアップアップしている。
「観光地化に力を入れたはいいが、思うように集客できない」「6次化プランナーにお願いして素晴らしい商品を作ったのに販路がみつからない」「誰にどう宣伝すれば良いかわからないけど、ご当地キャラクターを作った」「とりあえず英語のパンフレットを作ってみた」そんな話がよく聞こえてくる。
けれども実はこれら全て、「情報の発信力」があれば解決できることなのだ。
そう、今足りないのは「発信すること」。それも、的確な人に、的確な方法で、適度な量を。
今回は、それぞれ第一線で活躍する、4名の情報発信のプロが顔を揃えた。
約70名もの参加者。非常に熱心に登壇者の発言に聞き入った
ネイティブの倉重氏は富士総合研究所(現みずほ情報総研)を経て2000年よりネットイヤーグループに創業期から参画し、大手企業のマーケティングやブランディング戦略の立案などに数多く携わる。2012年より新規事業として地域振興を目的としたデジタルメディア「北海道Likers」の立ち上げを皮切りに、「沖縄CLIP」、「瀬戸内Finder」を手掛ける。2016年にネイティブを起業し地域事業創出に従事している。
ネイティブの倉重氏
Huuuuの徳谷氏は、2011年に株式会社バーグハンバーグバーグへWEBディレクターとして入社する。「分かりすぎて困る!頭の悪い人向けの保険入門」「au × デアゴスティーニ『週刊スマホを作る』創刊!」などのサイト制作を担当。現在はHuuuuを起業し、代表、どこでも地元メディア「ジモコロ」の編集長そして「BAMP」編集長として活躍している。
Huuuuの徳谷氏
morondoの原田氏は、学生時代より株式投資をはじめ起業するまで個人投資家として過ごす。2008年に起業し、10年より「枚方つーしん」を本田一馬(共同経営者)と運営。
2015年枚方市総合計画審議会委員。
「枚方つーしん」(通称ひらつー)は大阪府枚方市に特化したローカルメディアとして月間約240万PVを突破。近年はリアルでのコワーキングスペースの運営やマルシェの開催なども手がける。
morondoの原田氏
ヤフーの西田氏は、2004年ヤフー入社。2006年から約7年間、「Yahoo! JAPAN」トップページの責任者を勤め、2008年にはヤフー初となるトップページ全面リニューアルを指揮。2013年から検索部門へ異動し、東日本大震災の復興支援と検索を掛け合わせたキャンペーン「3.11 検索は応援になる」や検索で一年を振り返るイベント「検索大賞」を立ち上げた。2017年から執行役員コーポレートグループSR推進統括本部長に就任、地域貢献活動に従事している。
ヤフーの西田氏
このメンバーが語る地方創生ビジネス成功のカギ、そして課題を抱える70名の熱き参加者との熱いディスカッション。非常に濃密な2時間半となった。
“地域活性化、主役はあくまで「地元民」”
地方創生とは、いかに地域にお金をおとし、活性化し、潤っていくかに尽きる。登壇の最初を飾ったネイティブの倉重氏はいう。
ところが現状は、活性化を目指し、補助金や国の予算を使って様々な施策を打ち出すもののそのほとんどが成功には程遠い状況にあるのだ。
その一つの理由として肝心の地元民が「置いてきぼり」をくらっているという問題がある。田舎の素朴な人々は地方創生施策である「インバウンド対応」「地域ブランド化」「SNSの運用」といったカタカナ語につい難しさを感じ、都会のコンサル会社等の「プロ」に全てを任せてしまう。
その「プロ」が指示するまま多言語化された地域メディアを作成し、「プロ」が選んだ産品を新たにブランディングし、コストをかけたこだわりの新パッケージで販売する。
その結果一時的に観光客が増え、売上も上がるかもしれないが、あくまでよそ者が作ったきっかけでしかなく、地域全体に浸透した仕組みではない為、これを継続させることは難しいのだ。
「プロ」というよそ者によって作られたブーム商品よりも地元民が本当に勧めている商品の方を求めるし、何度来ても楽しめそうな歓迎ムードがない街には戻ってこない、それが観光客だ。
かといって、地域の人々が全て「プロ」任せといえばそうではない。
地域活性をビジネスとして非常に高い志をもって取り組んでいる地域もたくさんあるのである。そういった取り組みや人を可視化し、しっかりと持続性のある業界化を目指して運営している地域メディアが、ネイティブの「沖縄CLIP」と「瀬戸内Finder」なのだ。メディア内で地域外に向け紹介している観光スポット、お勧め飲食店、お勧め産品。これらの取材から撮影、記事執筆を全てその地域の人間が行っている。
地元民が勧めている情報は、この地域を知らない読み手が求めているまさに「本物」の情報。実際にこのサイト情報を元に地域に訪れる観光客は多く、またその後の再訪率も高いという。
「沖縄CLIP」「瀬戸内Finder」を運営するネイティブの倉重氏
また、ついに7月に260万PVを超えた、地元向け地域メディア「枚方つーしん」の運営会社morond代表の原田氏は、「枚方つーしん」に読者がこれだけついたのは、枚方市民が日常生活でそのまま人に伝えたくなるような使える情報を扱っていることが最大の理由ではないかと語る。
近所の新店情報や、飲食店、物件の取材。地元民が「気になっていた」「知りたかった」情報を「枚方つーしん」が教えてくれる。まさに地元民の為の地元民による地域メディアだ。枚方市民の7割以上が読者だというのだから、通学途中や夕刻の家族団らん時にシェアされる話題のソースはほとんどが「枚方つーしん」といっても決して過言ではないだろう。
「枚方つーしん」について語る原田氏
“ターゲットとテーマの確立”
地元民を主役にしたらあとはターゲットとテーマの確立である。
いくら良い内容のコンテンツを揃えても、次にそれを正しい読み手に伝えられなければ全く良い結果は伴わないのだ。
よく聞く失敗例は、あらゆる情報をなんでもかんでも詰め込んだ、読み手のニーズを無視した独りよがりの情報サイトだ。
いくらこだわりのワインを勧めても、日本酒好きの人は振り向いてはくれない。まず発信側が提供したい情報と読み手のニーズが合っていなければ地域活性化の成功は程遠い。
原田氏の「枚方つーしん」は言うまでもなくターゲットもテーマもずばり「枚方」。
地元民の為の地元民による地元情報発信サイトであるし、Huuuuの徳谷氏自身が編集長を務める地域メディア、「ジモコロ」では「仕事」と「地元」をテーマに一風変わった面白い人を取り上げ、ディープでキャッチ―な切り口を持ち味に、ターゲットである地元民の読者の心をつかんでいる。
「人って、今まで見たことも聞いたこともない話を聞きたがりますからね」と徳谷氏。もちろん地域の歴史や文化等社会派コンテンツも取り上げるが、やはり面白おかしく伝えることで通常むずかしいと言われる若年層のファンの獲得に成功している。
キャッチーだったり突飛だったり、オリジナル性を高めたテーマとそれを伝える先のターゲットさえ確立できれば、成功はもうすぐそこなのだ。
参加者の真剣なまなざし
参加者が成功にさらに近づけるよう、今回は実際に登壇者4人が、地域メディアにおけるテーマの確立方法から、読者や観光客の心を鷲掴みにする仕掛けの作り方など、参加者の目と耳をくぎ付けにする成功の秘訣を披露した。一問一答形式で行われた内容をできるだけそのまま記載したい。
“Q1. 地域メディアとしてのKPIは?”
前述したように、地域メディアと一言でいってもそれぞれのテーマやターゲットは異なる。それぞれの目指すKPIはずばり何なのか。
倉重氏:もちろん最終的に売上を目的としているが、その中で、やはり「いかに多くの人に届けられたか」が明らかになる数字なのでPV数、SNSのリーチ数は大切にしていますね。
徳谷氏:僕らはPV数を上げることも当然努力しているが、それよりもいかにファンの顔がちゃんと見えるかどうかを大事にしています。北海道のとあるバーで飲んでたら、「ジモコロの柿次郎さんですよね?」と声をかけられたことがあり、こんなところまで届いているんだ、と実感したんです。そういった実体験に基づいた感動を大切にしてますね。
原田氏:記事広告を一記事ごとに対し売っている為、いかに記事を多く書くかが売上に直結するので、KPIは本数ですね。また編集サイドはUU、SNSのファン数を大事にしています。
“Q2. 実際のマネタイズ事情!?”
ちょっと突っ込んだ質問。ぶっちゃけ、収益の方はどうなっているの!?
倉重氏:各地域のパートナーと一緒に収益アップを目指しています。
メディアごとにECを導入したり、広告、ブランディング化をしたりしながらビジネスモデルの多様化で収益を図っています。
徳谷氏:「ジモコロ」はオウンドメディアなので広告はなく、製作費がメイン収益です。
原田氏:収益減はずばり広告収益です。黒字化してます!(笑)
“Q3. 運営側が感じている課題”
倉重氏:直近の課題でいうと、ライター不足ですかね。今とても需要があって、特に地域の人となると引っ張りだこという感じなんです。特に我々は写真も撮れるフォトライターを必要としているのですが、写真も撮れる人となるとなおさら人気が高いので確保するのに苦労していますね。
徳谷氏:僕が思うのはやっぱり編集者が足りないですね。しっかりと書けて、構成を編める人が少ない。こればっかりは、実際にそういう人材を育てる企業が、お金をかけて教育をしていかないと改善しない気がしています。
原田氏:継続性ですね。事業性、収益性、全てにおいて継続できるかどうか。それが編集・ライターにとってもモチベーションになりますから。
西田氏:課題というか、注意点として敢えて言うなら、大手メディアの真似事はしない方が良いということ。メディアに限らず地方がよくやってしまうのは、「ミニ東京化」。体力もマンパワーも違うので、同一化はそもそも無理。東京化を意識しすぎないことが大事だと思います。
ユーモアを交えながら分かり易く語る徳谷氏
“Q4. 地域PRのコツ”
参加者が一番聞きたいであろうPRのコツ。発信したい気持ちはあるのに、いざアピールしようとするとどのようにしたら良いか分からない。プロの答えが気になる。
倉重氏:いかに特化できるか!ですね。以前淡路島の道の駅と一緒にブランディング企画をした際、玉ねぎを使って爆発的にバズらせることができたんです。玉ねぎをUFOキャッチャーの景品としていれたり、玉ねぎの皮をむいた時の涙の美しさを競うコンテストを開催したりしたんですよ(笑)これがテレビや新聞で取り上げられ、「淡路島=玉ねぎ」というイメージができ、集客の起爆剤にすることができた。
実は淡路島は玉ねぎの名産地ではありますが生産量としては3位。しかし、話題性のあるPRとブランディングの仕方で成功したわけです。いかに「この地域は〇〇がすごい!」といえるものを仕掛けるかどうか。地域活性のコツはそこにあると思いますね。
徳谷氏:地域に呼びこむ力、ですかね。呼んでもてなして好きになってもらう。そしてそこで見つけた資源を編集者の力でクリエイティブに発信すること。
原田氏:ずばり、「切り口を変える」こと。他とは違う切り口、視点で発信することです。
西田氏:ストーリー化ですね。 例えば某航空会社さんが行ったように、ハート形の岩をみつけたら、恋愛系の秘話をくっつけて発信する。ものやスポットをストーリー化することが、一気に集客のきっかけとなることがあるんです。
大手ならではの視点で答える西田氏
イベント最後に行われたワークショップでは、ワールドカフェ形式で参加者が登壇者全員と各10分程直接話せる。それぞれの登壇者に対しするどい質問が飛び交い、多いに盛り上がった。
鋭い質問が飛び交ったワークショップの様子
今回参加者の中で最も多かったのは地域活性化におけるメディア運営者。
ただ情報を発信するだけではなく、結果に繋げる為のコンテンツ制作の実践的なコツや課題解決へのヒントを直接プロから熱心に学ぶ姿が非常に印象的だった。
参加者の熱意のある意見交換はワークショップ終了後も続いた。
東京一極集中、人口減少と様々な問題に負けず、地方活性化の溢れる可能性が垣間見れた、非常に学びの大きい約2時間半となった。
地方のポテンシャルを熱く語る澤野啓次郎代表
主催者であるリベルタ代表の澤野啓次郎氏は、自身もシンコーミュージック、ウォーカープラス(KADOKAWA)やヤフーで計18年間のメディア経験を積んだ情報発信のプロである。山口県の小さな町の出身で、日本人にとっては「ふつうの景色」も必ず世界の誰かの「素晴らしい景色」になると、インバウンド向けに山口県を始め日本の田舎を自社造成のウォーキングツアーを通じてブランディングしようと、地域活性事業に従事している。今後もコミュニケーションを重視したイベントを通じて、IT業界、メディア業界、広告業界をリードする存在を目指していくという。
取材/文・ローズヴィア麻友子